ベルン州の州都であり、スイス連邦政府も置かれるベルンBernですが、人口はわずか14万余りのこじんまりした森と緑に囲まれた美しい古都です。街にはエメラルドグリーンの色をしたアーレ川Aareが蛇行し、ベルナー・アルプスの雪解け水が滔滔と流れています。
また、あまり知られていませんが、物理学史上の奇跡の年といわれる1905年の「光量子仮説」「ブラウン運動の理論」「特殊相対性理論」は、ここベルンで生まれました。もし私が光に乗ることができたらいったいこの世界はどのように見えるのだろうか。16才の彼は疑問に駆られ、それから毎日、思考実験を繰り返しました。それから10年後のある晴れた日、そう、この写真のようなうららかな日、友人との散歩の途中で突然一筋の答えが浮かんできました。小学生でも知っている電車の中では時間がゆっくり進むというあれです。
私にとってベルン訪問の動機は、時計塔や大聖堂でもなく、他でもないアルベルト・アインシュタインでした。世界には、絵画や詩、つまり筆や言葉という道具を使用してこの世のしくみなるものを表現した芸術作品は星の数ほどありますが、彼は思考実験つまり理論(数式)でそれを表現しました。それも時空がゆがむという、この世の世界観をも変えてしまうような芸術作品でした。一見、冷たく無味乾燥に見える数式ですが、彼の芸術作品を見れば、絵画や言葉と同じように実は血の通った暖かいものかもしれません。そして英語が人類共通の言語だとしたら、数式は宇宙共通の究極の言語なのやもしれません。