全長280Km、日本ならば東京〜名古屋間を約8時間もかけて走る、氷河特急Glacier Expressの旅も、テーシュTaesch駅を過ぎると、いよいよ長かった旅もフィナーレを迎えます。午後のやや傾きかけた斜光が、真紅の車体をよりいっそう誇らしげに輝かせ、氷河融水によるミルキー・ブルーに染まった小川に沿って、残すひと駅、ツェルマットZermattに向け最後の力を振り絞ります。そして、主役は、最後の最後に現れ、乗客たちをやさしく迎えてくれます。鈍行という響きもはるか遠日のように聞こえる今日、こんな贅沢な列車の旅もいいものですね。 　それにしても、この車体の赤色は、スイスの風景によく似合いますこと。アルプスを走る鉄道にしか許されない配色かもしれません。ウィーンのトラムやロンドンの２階建てバスも、街の風景にすっかり溶け込んでいますよね。公共交通機関で赤色を採用しているところが少ないのを見ると、赤色というのは、なかなか着こなしの難しい色だなと思ったりします。